2014.09 606×300 mm 個人所蔵
「未確認飛行物体」
薬缶だって、
空を飛ばないとは限らない。
水のいっぱい入った薬缶が
夜ごと、こっそり台所を抜け出し、
町の上を、
畑の上を、また、つぎの町の上を
心もち身をかしげて、
一生けんめいに飛んで行く。
天の河の下、渡りの雁の列の下、
人工衛星の弧の下を、
息せき切って、飛んで、飛んで、
(でももちろん、そんなに早かないんだ)
そのあげく、
砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花、
大好きなその白い花に、
水をみんなやって戻って来る。
入沢康夫「未確認飛行物体」より