作者不詳の肖像ⅲ/幸せ症候群-An anonymous portrait-
2012.12 330×220mm(P4)作家所蔵
「わしはとうと人類の歴史を知らずに死ぬのだ。」
「いや、陛下、左様では御座いません。」
その老学者は答へました。
「私は陛下のためにその歴史を三つの言葉に押し縮める事が出来ます。
生れた、苦しんだ、而して死んだと申す事で御座います。」
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私はこれを読んで仕舞つた時、暫くは不思議な心持ちでゐました。
「生れた、苦しんだ、而して死んだ。」
世の初めから今日まで――いゝえおそらく世の終わりまで、この三つの言葉から違つた路を歩いた人があるでせうか。
野上弥生子『手紙を書く日』より
「いや、陛下、左様では御座いません。」
その老学者は答へました。
「私は陛下のためにその歴史を三つの言葉に押し縮める事が出来ます。
生れた、苦しんだ、而して死んだと申す事で御座います。」
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私はこれを読んで仕舞つた時、暫くは不思議な心持ちでゐました。
「生れた、苦しんだ、而して死んだ。」
世の初めから今日まで――いゝえおそらく世の終わりまで、この三つの言葉から違つた路を歩いた人があるでせうか。
野上弥生子『手紙を書く日』より